企画展「メディアアートの輪廻転生」 メディアアートの墓 構造デザイン

2018年7月21日(土)-10月28日(日)にかけて山口情報芸術センター(YCAM)において開催された15周年企画展 「エキソニモ+YCAM共同企画展 メディアアートの輪廻転生」 という展示においてメディアアートの墓と呼ばれる展示空間の構造デザインを慶應義塾大学鳴川研究室で担当しました。

 

企画展「メディアアートの輪廻転生について」
YCAMは開館以来、メディアアートを中心として国内外のアーティストとともに数多くの作品を発表してきました。しかしながらメディアアートは絵画などのアートと異なり、メディア機材などを作品の一部として含んでいるという性質上そのハードウェアの劣化や環境の変化によってメディアアートそのものを未来へと残していくということが困難になりつつあるという現状があります。そこでNYを拠点として活動するアートユニット「エキソニモ」とYCAMの共同企画展としてメディアアートの死、その先の生について問題意識を投げかけるというのが本企画展の狙いです。 巨大なメディアアートの墓と呼ばれる構造体が製作され、その内部に様々な理由によって”死”を迎えたメディアアートの亡骸が埋葬されました。
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構造設計
今回鳴川研としてはメディアアートの墓と呼ばれる展示室の構造デザインを中心としてプロジェクトに携わりました。まずはじめにメディアアートの墓として空間をデザインする際にどのような幾何学的なルールで全体を構成するかということを考えました。古代日本では王族を埋葬するために前方後円墳に代表されるような古墳が多く作られていたことを踏まえて、今回はその後円墳の部分に注目し、美しい円錐状の古墳のような展示室をめざしました。より古墳らしさを生み出すため、また子供たちがお墓の上で遊べるように人工芝で表面を覆いました。

構造は木造で、コストを抑えるためにツーバイ材と呼ばれる比較的安価な規格の木材を選定しました。さらにYCAMの会場内の限られたスペースで効率的に施工できるように木造の同断面ユニットを組み合わせていく構法を採用しています。作り方の手順としては、まずはじめにツーバイ材をトラス状に組み合わせて三角形のフレームを作ります。次にそのフレーム同士を水平方向の部材でつなぎユニットにしておきます。そしてそれらの16個のユニットを円環状に並べて緊結することで全体を構成しました。ちょうどカットされたショートケーキを集めてホールケーキにするみたいなイメージです。これらの細かな組み立て手順なども学生中心にシミュレーションしました。このユニットは一つ一つの部材がきれいな角度では交わらないため、3Dモデリングデータを用いて複雑な加工をすべて正確に図面化し施工図面を作成しました。また上に人が載ることを想定しているため安定した構造を担保しつつ、組み立て安くコストも抑えるために断面寸法や梁のスパンなどを綿密に計画しました。2018年6月の中旬からは研究員の小嶋が現地に2週間ほど滞在し、研究室として、大工さんとコミュニケーションをとりながら施工方法を議論しつつ、現場に行かないとわからないような様々なの工夫を学ぶことができました。

YCAMとSFC
今回のプロジェクトでは比較的大きな木造の展示空間のプロジェクトに設計段階から竣工まで立ち会うとても貴重な機会を得ることができました。普段の大学の授業などでは図面を書くことはあってもそれを実際に作るチャンスはなかなかありません。実際に製作をはじめてから思わぬところで不都合が生じていたりしないように設計を検討する大切さを身をもって学ぶことができました。アーティスト、デザイナー、大工という従来の枠にはとらわれない領域横断的な思考が要求された本プロジェクトは学生にとってとても実りの多いものであったと振り返ります。
より広い視点に立って今回のプロジェクトを振り返ると、SFCとメディアアートの黎明期は重複する時期にあり、当時から30年ほどたった2018年にメディアアートの死とその先を考えるということはSFCの死とその先を考えるということにもつながるのかもしれません。SFCでの美術やデザインの教育・研究のあり方を考えるという意味でも非常に重要なものでした。