2018年度卒業制作 -「自然色和紙 – 天然染料と和紙の可能性 – 」村松明日香

三角形 / 点染 / クチナシブルー、ラックダイ、ベニバナ

概要

本制作では、従来、布の染料とされてきた植物染料による和紙の折り染めを行い、折り染めの特徴である立体のグリッドを平面へと落とし込むことで、和紙の新たな模様表現・色表現を模索する。2014年、ユネスコの無形文化遺産に和紙が登録された。外国人観光客の手土産として親しまれたり、西洋絵画の修復にも利用されていたりと国外からの評価も高い。しかし、1901年には68562戸であった生産者が、2001年には392戸と激減した。精密な機械や技術が必要であり高価なことから、その活用の幅が狭いことが問題として考えられている。これらの背景から、和紙を手軽に活用し制作へと利用する用途研究が求められている。

植物染料とは、草木染めの染料として知られている天然染料である。合成染料が輸入される明治以前まで、衣類の染料として利用されてきた。その特徴として、色むらが生じること、濃く染めにくいことなどが挙げられる。合成染料と比べて色が不安定であることから、量産型市場では化学染料が台頭していく結果となり、その利用機会は減少した。しかし、私はこの植物染料の特徴に着目し、縦横の糸で面が構成されている織布に対して、繊維をランダムに潰して面を構成している紙は、植物染料の色むらの表現媒体として適しているのではないかと考えた。特に和紙は洋紙に比べて繊維が長く、細部の滲み表現に有効である。植物染料の不安定な色素は、染色の途中で色分解が生じ、染色部分と、その広がりの先端部分とでは自然と色変化が生じた。面の密が高い和紙に利用したことで、植物染料のデメリットであった不安定な色素を活かす表現が可能になった。

手法として、細部まで折ることができる紙の特徴を活かし、多角形に折った紙の塊を染色する方法をとった。この折り目のグリッドと点・線・面の三つで構成された染色部分によって模様が生まれる。また、平面に意図的に折り目をつける過程を経て、既に形を持った立体物の染色を行なった。その立体の持つグリッドが、平面へと落とし込まれることで模様となって現れる。植物染料の分解から生じる多彩な色表現において、規則性をもったグリッドを構成することで、その立体の展開をより忠実に模様へと落とし込むことに繋がった。均一な工業社会において、再現性が低く扱いずらい媒体は排除される傾向にある。しかし、その不完全さを逆手に取ることで新たな価値が生まれる。和紙と植物染料を利用した制作表現の可能性は広く、本制作もその過程の一つとして位置付ける。