私が住む住宅街と最寄り駅の間にあるのがたまプラーザ団地である。通学路にあるこの団地は、季節や時間帯によって見える風景や利用する人々が変化し、新築では得られない、半世紀を経たからこそ得られる場所の力強さがある。大量生産の代名詞である団地を取り上げ、高度経済成長期に整備されたインフラをどのようにアップデート(vr. 2.0)していくか、建築が可能な範囲で貢献できる提案を試みた。
たまプラーザ団地(築56年)は東急田園都市線たまプラーザ駅から徒歩8分の場所にあり、歩車分離の動線計画が行われた初期の事例の一つである。充実した教育環境や緑に囲まれた外構計画もあり、全住戸(1,254戸)の所有者が管理組合によって把握されている。その状況下、住民の高齢化、設備老朽化を理由に、建替の検討が進んでいる。
全国には5000団地あり、2035年には築45年超が3000団地弱となる見込みである。建替決議はおおよそ10年かかることから、建替を行うのか長期的に残していくのかの検討をすぐに行わないといけない状況である。
一方、建替を行うには住民の4/5の賛成が必要で、過去20年で100強の団地しか建替が実現していない。そのうち、100戸を超えた32団地の建替要因を集計すると、「設備の老朽化 (26)」「耐震性の不安(24)」「バリアフリー化(14)」「修繕費の負担(7)」「居住環境のアップデート(6)」「住民の高齢化(2)」が挙げられる。
たまプラーザ団地において、数年前に大規模修繕が行われたことから耐震性は担保されていると推測した。よって、団地を建替えるのではなく、設備改修とバリアフリー化を行うことで住み続けられる建築になると考えた。
加えて、今後50年、100年使われ続けることを想定すると、住民の年齢層の偏りなく入れ替わる仕組みが必要だと考えた。増築を行うことで、ハードとソフトの仕組みの両立を試みた。
提案において、「住民が負担する修繕費を維持すること」と「住民が住みながら増築を行うこと」を優先した。団地の住民と話すと、住んでいる理由の一つとして修繕費の安さを挙げた(月1.3万円)。これは5年前に竣工した大通りを挟んだ隣のマンションの修繕費の4割である。また団地建替え事例を確認すると、多くは住民が仮住居を自己負担する形になっていた。引っ越しによる住民の生活への影響を考慮して、工事中も住み続けられることを大切にした。
これを実現するために、建築計画に加えて二つ変更を行う。
一つは、「既存の公園を家庭農園に転用」である。団地内にある6つの公園のうち、敷地の外側にある4つの公園は年中ほとんど使われていない。また、バリアフリー化に伴いエレベータ―が増設することで、修繕費が増える。そこで、4つの公園を家庭農園に転用し、エレベータ―の修繕費を家庭農園で得た収益で補うことで、住民が納める修繕費を維持する。
もう一つは、「草刈り/生垣の伐採費用を削減」である。過去44か月の修繕費を集計すると、草刈り/生垣の伐採に全体の30%を費やしていた。これは設備改修のほとんどを占める排水管等の補修より大きい。必要最低限に手を加えながら、住民自ら草刈りを行い、余った費用を工事費に移動する。よって、工事費を安くすることができる。
バリアフリー化する住戸(C)は工事中、既存の階段室を使い続けながら、北面に廊下の増築を行う。その結果、二つの入口が生まれ、避難はしごを増設することなく二方向避難が可能になる。追加される廊下をフィレンディール構造にすることで、団地の特徴とも言える階段室を強調した意匠になる。
南面に増築を行う住戸(A)において、半数以上が東西に住棟が傾いている。開口が真南に向くように、3種類の増築方法が考えられる。
増築部はベランダの一部を取り除き、工期や工事費を考慮して鉄骨造で施工する。工事中は住戸との間に仮設の壁を設けることで、住民が住み続けながら増築を行う。また、増築部は耐震補強になる。
以前ベランダだったところは、確保できなかった南に面した半屋外のリビングになる。また、一部吹き抜けにすることや横の住戸と合体することができる。
以下が抜粋した3つの事例である。
1:住戸の半分を隣に渡すことで、一人が住むには十分な住戸に変更できる。
2:二つの住戸をつなげることで、広々と使うことができる。
3:階段を介して斜め上の住戸と接合し、平面的になる団地の計画を住民に合わせて立体的に住むことができる。
このように、躯体に変化を加えず南面に増築をするだけで、外からは均質的な平面計画に見えても、住民の要望に合わせて内部を立体的に使うことができる。
このように、本提案は団地の増築だけでなく、増築に至るプロセスとして 公園を家庭農園への転用と伐採を住民の手で行うことで、工事費の一部を負担するだけでなく、使われず修繕費がかかっていた場所を住民に使われる場所へと転用する。
団地の増築によって、3種類の住戸が生まれ、世帯類型の変化に合わせて団地内で住戸を移動できる。加えて、住民の要望に応じて増築部を介して横や縦に隣接する住戸と増築/減築できる。
本プロジェクトでは、単に増築するだけでなく、建つ過程や竣工後使われ続けるためにソフトの仕組みも成立しえる建築を提案する。
2023年度 槇伊藤賞(学内審査会)奨励賞
『卒業制作 2024』近代建築社 掲載予定