YCAM企画コロガル公園コモンズ 2018「ツナガル・ブロック」

2018年7月21日(土)-10月28日(日)にかけて山口情報芸術センター(YCAM)においてコロガル公園コモンズ2018が開催されました。慶應義塾大学鳴川研究室ではこの公園の一部のツナガル・ブロックと名付けたユニットの構造デザイン及び施工エンジニアリング担当しました。

コロガル公園について
コロガル公園とはYCAMが2012年から続けている子供向けの遊び場とそこで子供たちの想像力をはぐくむプロジェクトのシリーズの総称です。特徴的な形状の床面や空間にはスピーカーやディスプレイなどの様々なデバイスが埋め込まれていて子供たちは自ら遊び方を発見していきます。2018年現在までに「コロガル公園」(2012)、「コロガルパビリオン」(2013)、「コロガルガーデン」(2016)が実施されてきました。今回は2012年のものを再現し、一部をアップデートするという方向性で企画され、鳴川研がこの新しい部分を担当しました。

ツナガルブロック
今回設計したツナガル・ブロックは双曲面と呼ばれる3次曲面を利用して作られています。全部で五種類のブロックはそれぞれが平面的には同じ形なので位置や向きを事後的に自由に変更することができます。これらの双曲面を持つ無数のユニットはなめらかなランドスケープを生み出し、ユニットの可変性はそれが子供たちによってゆるやかに改変されていくことを担保します。

今回の作品を設計するにあたって特に留意した点は、子供の遊び場という用途に十分耐えうるものでなくではいけないという点でした。双曲面はそれが連続した時の空間的な新規性や面白さのほかにも、可展面 (平面に展開できる曲面のこと) ではないため構造的に強いというメリットもあったので双曲面を使ったユニットを考えることにしました。

3次曲面は平面に展開することが原理的に不可能なのですが、双曲面は直線が一つの媒介変数によってその位置が連続的に変化していくというルールで説明できるという特徴があります(線織面という). そこで短冊状の合板を曲げながら連続させることでこの曲面を近似することにしました。木材と合板でこのような曲面を作った事例は少なく、短冊の幅やどのように下地を固定するのか、合板はどのくらい曲がってくれるのかなど現場で考えさせられることの多いプロジェクトであり、貴重な経験と知識を得ることができました。
実際の製作ではYCAMに設置されているShopBotと呼ばれるCNCルーターを活用し曲面を作成しました。この背景には今回のコロガル公園コモンズをオープンソース化してYCAM以外の場所にも広がっていってほしいという思いがあります。ここ数年で3Dプリンターやレーザーカッターなどのデジタルファブリケーションツールが大学の研究室にあるだけではなく徐々に一般の方たちの目に触れることも多くなってきたと実感されるなかで、専門的な知識とスキルを持っていなくてもShopBotのようなツールがあればこのような遊具が誰にでも作れるのではないかと考えたからです。そのため、今回実際に使用したカットデータや詳細な施工マニュアルをweb上で誰でも閲覧、使用できるようにする予定です。実は鳴川研では学内の同様のデジタルファブリケーション施設を活用し、大型のドーム型構造物のプロトタイプと制作し、長期間の耐久試験を行ってきました。今回のプロジェクトはその延長線上にあると捉えるならば、試作検証から社会実装へと研究を発展させたものであるといえます。例えばドームの場合は屋根構造の検証を行いましたが、今回は子供たちが飛び跳ねても壊れない床の設計に挑戦しました。ドームに比べて子供一人が飛び跳ねる力は1平方メートル当たり180kgの荷重に相当するので技術的なハードルはより高いものでしたが、YCAMと共同開発を通して今までの鳴川研究室としての積み重ねを社会実装という形で実現することができました。安全性と構造の耐久性を要求される大型遊具の設計から施工までを学生主体で行うことができたのは非常に意義深い試みだったと振り返ります。

ツナガル・ブロックの持つ意味と展望
今回のコロガル公園2018ではコモンズという言葉が使われているように社会における共有地の在り方を探るという目的があります。子供たちが自分で遊び方を発見していけるように設計段階で一つの完成図を提示するのではなく、改変可能なシステムと選択肢を提供するというのは実社会でのコモンズ(共有地)の在り方を示すという意味でも示唆的であり、ここから様々な活用事例が展開されることを予感させます。次の社会において様々なタイプの人々によって共有される場所はどのように設計されていくべきなのかという問いに対する一つの答えなのではないでしょうか。しかしながら、このようなシステムによる選択可能性は自由であるように見えて実は自由な発想を阻害して限定的な選択肢の中に子供の創造性を閉じ込めているという見方もあります。かといって全く自由にしていいよ、という方針をとると一部のスキルと意欲を持つ子以外はうまく参加していくことができなくなることが予想できます。どちらに偏ることなく、自由とルールのうまいバランスを考えていくことが大切なのではないでしょうか。とは言え、子供の創造力は時として大人の想定している枠を吹っ飛ばすようなことが多々あります。このような子どもたちの力に期待しつつ、どちらに偏ることなく自由とルールのうまいバランスを考えていくことが大切なのではないでしょうか。