茶道で使う茶道具には、様々な種類が存在します。その中から茶席に用いる道具を選定し、組み合わせを考える楽しみは、茶の湯の大きな魅力の一つです。一見簡素な茶室も、道具のしつらえを工夫することで、空間に季節性や意味が生まれます。「組みかえて学ぶ茶道具図鑑」では、茶道具のしつらえの楽しみを、図鑑上で手軽に体験することができます。様々なテーマの茶席を想像し、それに合わせたお道具の組み合わせに考えを巡らせ、茶室の中の総合芸術を手軽に楽しめる図鑑です。
「本書は、茶会で最も重要とされる五種類(花入・棗・茶碗・水指・茶釜)の道具の中から、茶席で頻出する200個を厳選。お道具の種類ごとに小さな本を作り縦に並べ、一億二千四百万通りの組み合わせが楽しめるようになっています
茶道具を組み合わせる際、どんな組み合わせをしても良いわけではなく、考慮しなければいけない3つのルールが存在します。それらは、①格 ②意味 ③季節です。例えば、洋服でシルクハットにTシャツを普通はコーディネートしないように、茶道具にもおかしな組み合わせが存在するからです。実際の茶席では、この3つをしっかり考慮し失礼のない空間を作る事が大切になります。図鑑本体には、お道具ごとの①格 ②意味 ③季節 が、それぞれ分かりやすく表されています。
茶の湯の世界では真・行・草という三段回の格式があります。真は本来の形、行はそれを少し崩した形、草は最も崩した形というようにランク分けできます。この格付けは日本文化に根強く、お道具にも焼きや形などにより大まかな格付けが分けられています。お道具の格は、お茶会のテーマや誰に向けて開くかによって変わります。例えば、他国の大使とか大統領などのVIPや、目上の方を招待する場合は、真の格。親しい仲間内で開く茶会は、一番低い草の格を使用します。
この図鑑では、格をページの右端の緑のマークで表しています。
道具に描かれた紋様や、モチーフにはそれぞれ由来があり意味を持ちます。茶席は、ある意味謎かけのような場で、招待された客は、道具に隠されている意図を紐解くのが一つの醍醐味になっています。テーマに沿う内容に合わせるのはもちろんですが、ひねりや笑いを隠す事で茶室にどんな意味を持たせられるかは主催者のセンスの見せ所です。例えば、瓢箪は水に浮かぶことから、昔は浮き輪のような使われ方をしており、そのことから「身を守ってくれるもの」の象徴として知られています。また、六つ瓢箪を集めると、語呂合わせで無病(六瓢)息災という意味があります。なので、お茶室に隠れミッキーのように六つ瓢箪を隠し、客に探してもらうようなゲーム性のあるお茶会を開こうかな……などと想像を働かせる事ができます。意味を知ることで読者に様々な茶席を思いつくヒントになるようにしました。意味は、それぞれのページの説明に書かれています。
茶の湯の世界は、季節をとても大切にします。そして、道具にはモチーフや形によってそれぞれ使用すべき適切な季節があります。先ほどの瓢箪の例だと、大体六月ごろに使うのが正しいし、桜は三月ごろが季節です。また、平べったく薄いお茶碗はお茶が冷めやすいので夏に、筒型で分厚いお茶碗は冬に使用されるなど、形によっても適切な季節が変わってきます。本書では、道具ごとの季節感を茶室の日本庭園でよく見かける7つの草木を図鑑ページの背景につけることで表現しました。同じ草花が八節の時を回って変化する様子が書かれており、背景を同じ季節に揃える事で、季節感が正しいお道具同士の取り合わせを組む事ができるようになっています。
表紙のモチーフは茶道具が収納されている桐の箱をイメージしました。この結び方はつづら掛けと言って、細長いお道具をしまう時の結び方です。
製本は特殊製本で、セパレート製本にリング製本を組み合わせたものになっています。リング製本は高級感が落ちてしまうのが難点でしたが、後ろにリングを通すことで、前から見ると普通の上製本に見えるようにこだわりました。
表層はNTラシャを使用しました。コットンを含んでいるので、手触りが柔らかく高級感があることからこの紙を選びました。紙の厚さは、エンボスが一番綺麗に浮き出る130gを使っています。また、日本製の紙で和の色調という事もこの紙を選ぶ決め手となりました。図鑑本体はセルカドニー220gを使用しています。教科書のようにムラのない均一なプリントと、百科事典のような厚みを再現しています。表層のプリントはUVプリントで、白濃度を100%に設定することで、ぷっくりとした手触りになっています。
イラストは全て、①アイパッドで線画を描き、それを水彩画の紙にプリント。②日本画に使われる顔彩という水彩画で下絵を描く。③それをアイパッドに取り込み直して、質感と光・影を足す。という手順で制作しました。全てデジタルで絵を描くのではなく、実際に水彩で絵を描くことで、リアリスティックだけど、どこか暖かみがあるような絵を追求しました。以下が本書に掲載されている200個のイラストです。
Q.なぜ本という媒体を取ったのか?
A.一つは、デジタルの媒体の利点は、情報が日々更新できる点。この茶道具は茶道具の中でも昔から使われている、ベーシックな形やモチーフを扱っているので、本という形態を選びました。
二つ目の理由は、茶室の中に、電子機器を原則、持って行っていけないからです。茶室の中で使う場面も想定し、本という形が一番ふさわしいと判断しました。
Q.イラストの著作権の問題はどのように対処しているのか?
A.写真や映像をもとにして、絵やイラストを描く場合、確かに著作権侵害になる場合がありますが、今回のイラストは「複数の類似した道具の画像を元にそれぞれの特徴を抽象化してイラストに起こす」という方法をとっています。作成したイラストが、元の画像に類似しているかどうか「類似性」にひっかからないように、元の画像そのままのイラストではなく、十分に抽象化することなど気を付けて進めました。
Q.ターゲットは?
A.茶道中級者むけ。初心者はお道具を触る機会がなかなかないので、ある程度の基礎知識がある方向けに作成しました。