2022年度卒業制作- Auto Junction -自動運転時代にクルマを楽しむ場の設計-
小さいころからクルマが好きで、自分で運転できるようになってからさらに好きになりました。
クルマに乗ることはある種身近で大きな身体拡張で、自分の肉体ではありえないスピードで意のままに走って、流れる景色の中を駆け抜けていくのは最高に楽しいと感じています。
でもこれから先、自動車の大転換期といわれているように、自動運転化によって自動車そのものの概念が大きく変わろうとしていて、クルマが今のようには運転できなくなるんじゃないかという問題意識が自分の中にあります。
2030年には5台に1台が自動運転車になると予測されていて、世界中が自動化、電動化を推し進めています。
2040年、50年にはさらに普及していつか自動運転が主流になると予測しています。
自動化技術の台頭によって、自分で運転するクルマは相対的に不便な役に立たない機械になっていくと思います。
でも、役に立たないものに価値がないかというとそうではなくて、役に立つものと意味があるものは違くて。
役に立つものはどんどん更新されて塗り替えられるけど、意味のあるものは逆に付加価値がついてこれからの時代も残ると考えています。
馬車がなくなっても乗馬を楽しむ人がいたり、スマホが普及しても腕時計をつける人がいたり。
今回、自分で運転する自動車をカタカナの”クルマ”と表現すると、これからもクルマには意味があって、運転を楽しむという体験には価値があると信じています。
このような背景から、私は卒業制作で、自動運転時代にクルマを楽しむ場の設計を行いました。
神奈川県横浜市鶴見区大黒埠頭にある大黒ジャンクションを敷地に選びました。
かつてサンテリアが「新都市」で描いたような未来がこの場所に実現していて、それが新たな技術革新で過去のものになろうとしています。
この場所は物流のために作られた埋め立て島で、複雑なジャンクションや空中を走る高速道路はまさに自動車のために作られた人工のランドスケープといえます。
また大黒ジャンクションにあるパーキングエリアはクルマ好きの聖地になっていて、日夜問わず様々な車が集まってきます。
このように大黒ジャンクションでは独自にクルマ文化が育まれていて、お互いにお互いの愛車を見て乗って、ある種の生きた自動車博物館のような空間性を持っています。
この場のポテンシャルをさらに引き出してあげようと考えました
提案するのは博物館を中心とした複合型の自動車体験施設です。
自動運転車とクルマは交わることが難しくて、AIにとっては人間の予測不可能な動きが妨げになります。
ここでは自動運転車に最適化された新しいジャンクションを増築して接続し、クルマと自動運転車の動線を分けます。
既存のジャンクションは人間が運転するために最適化された形になっていて、必ず分岐が2股で、その前に標識があって、人間が迷って事故らないように設計されています。
でも自動運転はコンピューター制御で標識も車線もいらないので、もっとシンプルな形でジャンクションの機能を実現することができると考えました。
既存のジャンクションを分解すると、1つのらせんを軸に分岐を作るかたちなのに対して、あたらしいジャンクションは1つの円環で多方向の流れを処理します。
自動運転のメリットを活かしてより簡単な造形を実現しました。
道路のスパンを飛ばすためにトラス構造を採用していて、等間隔の柱にはセンサーが埋め込まれていて自動運転車の制御を助けます。
前のジャンクションが2040年ごろに耐用年数を迎えるので、既存の躯体を鉄板で補強しながら新しい道路も建設します。
自動運転車は前を見る必要がないのでより周囲の景色を見ることができます。
前のジャンクションそのものを展示の一部ととらえて、自動運転車というギャラリーから隣り合わせで見えるような構成を意識しました。
自動運転車が徐々に増えていくにしたがって、現在は自分で運転するクルマが主流なのが、自動運転が主流に切り替わるタイミングがあると考えていて、自動運転車がいきわたるまでは既存のジャンクションは運転を楽しめるワインディングの意味も持つジャンクションとして機能して、自動運転車がいきわたったタイミングでは、既存のジャンクションのループをヘアピンでつなげて閉じて、運転を楽しめるサーキットにします。
このように時間経過とともに、その時々の状況に合わせた道路の使い方をしていきます。
パーキングは、クルマと自動運転車が同じ場所に駐車しながらもまじわらないような動線設計になっていて、博物館のアトリウムを貫いて自動運転車はアクセスします。
クルマと自動運転車が一つの広場で混じりあうような体験を提供します。